テロメラーゼが血管の若返りを可能にする。
細胞の不死化と聞くと思わず「ヒトの不死も可能なのか」と期待してしまうかもしれない。しかし,ヒトの寿命に大きな影響をおよぼす心筋や脳の細胞などは出生後は分裂せず,死んだ細胞を隣の細胞が補うということがそもそもないとされる。このことからしても,細胞の分裂限界がなくなった(=不死化)からといって,個体としてのヒトの不死化とはいかないのだ。
とはいえ血管だけをとってみても,その医学への応用可能性は大きい。三井博士は「老化した血管を細胞移植などの方法で不死化細胞で置きかえれば,動脈硬化などの血管系疾患はおこりにくくなるでしょう。どんな臓器も血管がやられればだめになるので,血管細胞の不死化は体全体への影響が大きいと考えられます」と語る。
テロメラーゼによるテロメア伸長
テロメアは通常の細胞ではどんどん短くなっていくばかりだが,無限に増殖するがん細胞や,三井博士らがつくった”不死化細胞”(分裂寿命のない細胞)は,「テロメラーゼ」というテロメアをのばす酵素をもち,細胞の分裂寿命をのばしている。
テロメラーゼは,テロメアのDNA塩基配列のくりかえし構造「TTAGGG」と対応するRNA塩基配列をもっている。テロメラーゼは,このRNAの前半部分でテロメアと結合し,RNAの後半部分が周囲から対応する塩基を呼び集めることで,テロメアのDNA塩基配列を伸長させる。
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