ヒトの腸管内に多く存在する「免疫グロブリンA（IgA）」という抗体は，有害な細菌と結合し，排除することで，腸内環境の維持に寄与している。IgAは，免疫細胞の司令塔である「ヘルパーT細胞」から指令を受けた免疫細胞によりつくられる。ヘルパーT細胞にある「PD-1」というタンパク質は，免疫系のはたらきを調整することが知られているが，IgA産生におけるはたらきは不明だった。
　今回，理化学研究所の河本新平博士らは，PD-1が，IgA産生を適切に制御し，腸内細菌のバランスを保つことを明らかにした。通常，ヘルパーT細胞は，正しく機能するIgAをつくる免疫細胞の選別を助ける。今回実験に用いられた，PD-1をもたないマウスでは，ヘルパーT細胞が過剰に活性化された。すると，免疫細胞の選別がうまく行われず，腸内細菌と結合しにくいIgAが分泌された。その結果，悪玉菌は400倍にふえた。
　この腸内環境の変化は，全身の免疫系に影響をおよぼす可能性がある，と博士らは考えている。