メディカルニュース
サラセミアの遺伝子治療
nature 2010年9月16日号
フランスで行われた,重度の患者に対する遺伝子治療に,効果がみられた。

 ヘモグロビンβ鎖の異常で発症する「βサラセミア」は,貧血を引きおこす,世界的に最も多い遺伝病だ。有効な治療法の「同種造血幹細胞移植」は,拒絶反応などの問題がある。そのため,この疾患に対する遺伝子治療(治療用の遺伝子を患者の体内に導入すること)が,広く研究されてきた。だが,赤血球のみに大量にヘモグロビンβ鎖を発現させることや,遺伝子の導入が成功した血球系幹細胞のみを選択し治療効果をあげることは,むずかしかった。  フランス,国立保健医学研究所のカバッゾナ・カルボ博士らは,18歳の重度のβサラセミア患者に遺伝子治療を行った。患者から骨髄細胞を採取し,遺伝子を運ぶ「レンチウイルスベクター」でヘモグロビンβ鎖をつくる遺伝子を導入した。1週間の培養後,患者にこの骨髄をもどした。すると,幼少期より輸血が欠かせなかった患者が,21カ月輸血が不要になった。  この患者は,治療から3年が経過した現在も健康だ。しかしウイルスを用いた遺伝子治療は,過去にがんを引きおこした例がある。このことからも,遺伝子治療は患者の利益とリスクを十分に検討して考えねばならない,と博士らはのべている。  

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